腹腔内の臓器(腸管や肝臓、膵臓、脾臓など)は腹膜という薄い膜で覆われ、筋膜に包まれた頑丈な筋肉、そして皮下脂肪や皮膚で覆われています【図1】。腹壁ヘルニアとはその頑丈な筋肉の膜が筋肉と共に破綻し、弱くなったところに伸びた腹膜(ヘルニア嚢)が膨隆(ふくれる)することです【図2】。この弱くなったところから腸管が飛び出すと、いわゆる「脱腸」ということになります。中には飛び出した腸管が壊死することもあり、飛び出した腸が戻らなければ緊急手術を行うことがあります。
腹壁のヘルニアで圧倒的に多い疾患は鼠径部ヘルニア(外鼠径ヘルニア、内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア)です。その次に多いのが腹部手術の創部に生じる腹壁瘢痕ヘルニアです。他には比較的希ですが、高齢の女性に多い閉鎖孔ヘルニアなどがあります【図3】。
基本的な治療の原理はとても単純です。治療は、ほとんどのヘルニアに共通で、欠損した筋肉の膜をメッシュ(人工の膜)で修復することです【図4】。ただし、若年者(30歳以下くらいでしょうか?)の鼠径ヘルニアは出口が狭いことが多く、ヘルニア嚢を切除し、周囲の筋肉の膜を縫合するだけで治癒することが多いため、必要がなければメッシュは使用しないようにしています。尚、15歳以下の子供の患者様には腹腔鏡下にヘルニア嚢を結紮するLPEC(腹腔鏡下経皮的腹膜外ヘルニア閉鎖術)を行っています。
これに対してある程度の年齢の鼠径ヘルニアでは、メッシュなしでは再発することが多く、メッシュという人工の膜をあてて治すのが基本となります。
また高齢女性を中心に食道裂孔ヘルニア(胃が胸腔に入り込む)疾患が近年増加しています。嘔吐や胸やけ、誤嚥性肺炎の原因になることがあります。ご高齢で手術のリスクもあるため手術適応については慎重に検討が必要ですが、腹腔鏡手術で横隔膜の縫合・縫縮とメッシュによる補強および噴門形成(胃から食道への逆流を防止する処置)を行っています。
2017年 | 2018年 | 2019年(~9月) | |
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症例数(うち腹腔鏡) | 症例数(うち腹腔鏡) | 症例数(うち腹腔鏡) | |
鼠径ヘルニア | 80( 48 ) | 97( 62 ) | 66( 45 ) |
大腿ヘルニア | 5(4) | 3(0) | 2(2) |
閉鎖孔ヘルニア | 2(1) | 2(2) | 2(2) |
腹壁瘢痕ヘルニア | 1(1) | 2(2) | 3(2) |
食道裂孔ヘルニア | 1(1) | 2(2) | 1(1) |
横隔膜へルニア | 0 | 1(1) | 0 |
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